中島みゆき「ファイト!」 歌詞の意味を考える長文1

最近、カロリーメイトのCMで満島ひかりちゃんが歌っている「ファイト!」
 
元の曲は、中島みゆきさん。
 
知ってる人には今さら言うまでもない名曲。
 
知らない人は、まずはCDを買って聞いてほしい。
  いきなり買えって言われても……、という人にはコレ
    http://www.youtube.com/watch?v=aWeCfIO9yY4  満島カロリーファイト!
    http://www.youtube.com/watch?v=nssUoeiHqRM  吉田拓朗カバー
  聞いたら欲しくなる、絶対!
 

CMで使われているのはサビの部分
 
  ファイト! 闘う君の唄を
  闘わない奴等が笑うだろう
  ファイト! 冷たい水の中を
  ふるえながらのぼってゆけ
 
応援歌だ
 
CMでも大学受験に挑む受験生が登場する。
 
どう聞いても応援歌

 
しかし実際、この曲をフルで聞いてみると、
応援歌なんてレベルじゃないことがわかる。
 

 
  あたし中卒やからね 仕事を もらわれへんのや と書いた
  女の子の手紙の文字は とがりながらふるえている
  ガキのくせにと頬を打たれ 少年たちの眼が年をとる
  悔しさを握りしめすぎた こぶしの中 爪が突き刺さる

  私 本当は目撃したんです 昨日電車の駅 階段で
  ころがり落ちた子供と つきとばした女のうす笑い
  私 驚いてしまって 助けもせず 叫びもしなかった
  ただ 怖くて逃げました 私の敵は 私です

  ファイト! 闘う君の歌を
  闘わない奴等が笑うだろう
  ファイト! 冷たい水の中を
  ふるえながらのぼってゆけ

  暗い水の流れに打たれながら 魚たちのぼってゆく
  光っているのは傷ついて はがれかけた鱗が揺れるから
  いっそ水の流れに身を任せ 流れ落ちてしまえば楽なのにね
  やせこけて そんなにやせこけて 魚たちのぼってゆく

  勝つか負けるかそれはわからない それでもとにかく闘いの
  出場通知を抱きしめて あいつは海になりました

  ファイト! 闘う君の歌を
  闘わない奴等が笑うだろう
  ファイト! 冷たい水の中を
  ふるえながらのぼってゆけ

  薄情もんが 田舎の町に あと足で砂ばかける って言われてさ
  出ていくならお前の 身内も住めんようにしちゃる って言われてさ
  うっかり燃やしたことにして やっぱり燃やせんかったこの切符
  あんたに送るけん持っとってよ 滲んだ文字 東京ゆき

  ファイト! 闘う君の歌を
  闘わない奴等が笑うだろう
  ファイト! 冷たい水の中を
  ふるえながらのぼってゆけ

  あたし男だったらよかったわ 力ずくで男の思うままに
  ならずにすんだかもしれないだけ あたし男に生まれればよかったわ

  ああ 小魚たちの群れきらきらと 海の中の国境を越えてゆく
  諦めという名の鎖を 身をよじってほどいてゆく

  ファイト! 闘う君の歌を
  闘わない奴等が笑うだろう
  ファイト! 冷たい水の中を
  ふるえながらのぼってゆけ
 

けっこう意味深な歌詞である
 
グーグル先生に 「 ファイト 歌詞 」 
で検索してもらうと、
次の予測検索は 「 ファイト 歌詞 意味 」だ
 
みんな、この歌詞の意味を知りたがっている。 共有したがっている
 
だから私も、この歌詞の意味を考え、共有してみたいと思う

 
1. あたし中卒やからね 仕事を もらわれへんのや と書いた
   女の子の手紙の 文字はとがりながらふるえている
 
このワンフレーズは、
中島みゆきさんのラジオ番組に届いた、リスナーからの手紙が元になっている。
 
 
私は中学を出て、すぐに働いて二年になる十七歳の女の子です
 
この間、私の勤めている店で、店の人が私のことを
「あの子は中卒だから事務は任せられない」
と言っているのを聞いてしまいました
 
私、悔しかった
悔しくて、悔しくて、泣きたかった
「中卒のどこが悪い!」……と、言いたかった
 
私だって高校行きたかった
だけど家のこと考えたら、私立に行くなんて言えなかったし
高校に入る自信もなかった
 
なのに、こんなふうに言われるなんて、ひどい
 
ごめんなさい
愚痴を書いてしまって
またお便りします
P.N. 私だって高校行きたかったさん
 
愚痴である。 切々とした愚痴である。
 
今でこそ、こういった悩みや愚痴なんてものは、
ブログやツイッターを使って誰でも気軽に発信できますが、
 
この当時はまだインターネットもない時代。
一般人が自分の気持ちや何かを全国の人に聞いてもらうには、
こういうラジオ番組に投稿し、取り上げてもらうしかありませんでした。
 
しかしこの一通のお手紙は、よほど中島さんの心に響いたのでしょう。
名曲「ファイト!」はこの一通が生みだしたと言って良いと思います。
 

 
「中卒だから」 という、たったそれだけの理由で、
『店の人』は『女の子』のことをちゃんと評価してくれません。
 
この“理不尽”な、
しかし中卒と言うのは事実だから“どうすることもできない
 
つまり、 どうしようもない理不尽さ
 
 
「ファイト!」は、この “どうしようもない理不尽さ” と、
  それに “打ち負かされそうな少女” を唄った歌なのです。
 
 

 
また同様に、この先の歌詞にも
 
  “「ガキのくせに」と拳を振り上げる大人” “頬を打たれた少年”         
            “突きとばした女” “階段から転がり落ちた子供”
        “水の流れ” “逆らって泳ぐ魚”
“私の敵は” “私”
“住めんようにしちゃる田舎” “わたし”       
 
といった具合に、
理不尽な暴力” と “打ちのめされる者
 
の対比(対立)が「ファイト!」には数多く登場します。
 


2. ガキのくせにと頬を打たれ 少年たちの眼が年をとる
   悔しさを握りしめすぎた こぶしの中 爪が突き刺さる

ここでも
 暴力をふるう大人と、 それに屈する少年が登場する。

「ガキのくせに」
ガキと言われても、急に大人になることはできない。
少年には全くどうしようもない理由で、理不尽に殴られている。

「中卒だから」と言われ、不遇に扱われた少女と同じ光景です。

「悔しさを握りしめすぎた―」というフレーズからも少年の行き場のない悔しさ、怒りが見えます。


しかし同時にここには視聴者を悩ます意味深なフレーズもあります。
少年たちの眼が年をとる」です。

年をとる、とはどういうことなのか?

当然これは「大人になる」という意味でしょう。
そして「大人」とは、「ガキのくせに」と言って子供の頬をひっぱたく人間のことです。

  頬を打たれ、悔しさに握りこぶしを固めていた少年が、
  やがては彼自身もそういう大人になっていく。

  頬を打たれた
    →痛い
     →もう痛いのはイヤだ
      →大人に叩かれないようにするにはどうすればいい?
       →大人に逆らわず言うとおりにすればいい

つまり大人の理不尽な暴力に屈服し、敗北し、従属する。
そうすれば少年はもう痛い思いをしなくてすむし、そうすることが大人になるということなのです。

だから「少年たちの眼が年をとる」 とは、“少年は暴力に負けた”ということを意味している。そう解釈することが出来ると思います。



3. 私 本当は目撃したんです 昨日電車の駅 階段で
   ころがり落ちた子供と つきとばした女のうす笑い
   私 驚いてしまって 助けもせず 叫びもしなかった
   ただ 怖くて逃げました 私の敵は 私です

……で、出た!
「ファイト!」の中で最もショッキングな歌詞。

女が子供を階段から突き落とす。 ……姉さん、事件です(~□~;)

「ファイト!」では理不尽な暴力・抑圧がテーマになっていますが、
これはあまりにも理不尽すぎます。

また、ここでの対比関係は
“転がり落ちた子供” と “つきとばした女” なのですが、

この理不尽すぎる暴力は同時にそれを目撃した“主人公(私)”をも打ちのめしています。
つまり、“私”と“つきとばした女”も対比関係であり、

また同時に、“私”は子供を助けもせず逃げて(=見捨てて)いますから、
“私”と“転げ落ちた子供”も対比関係と言って良いでしょう。
子供の目線から見れば、女に突き落とされた挙句、私にも助けてもらえないなんて理不尽以外の何ものでもありません。

そして “私の敵は” “私” の対比関係です。
“私”は本当はその子供を助けたかった。
しかし同時に、こんな関わるのは怖いから逃げる。そういう身勝手で事なかれ主義の“私”もいます。
  前出の“中卒の少女”や“頬を打たれた少年”に則して例えれば、
  子供を助けたい“私”は『子供属性の“私”』であり、
  身勝手で臆病な“私”は『大人属性の“私”』です。

つまり、「頬を打たれ少年たちの眼が年をとる」と同じことが、
この“私”の中でも起きています。
恐怖や理不尽から逃げ、目をそむけることで、この“私”も大人になっていくのです。



4. 暗い水の流れに打たれながら 魚たちのぼってゆく
   光っているのは傷ついて はがれかけた鱗が揺れるから
   いっそ水の流れに身を任せ 流れ落ちてしまえば楽なのにね
   やせこけて そんなにやせこけて 魚たちのぼってゆく

魚パートです。

「ファイト!」の歌詞で特徴的なのは、
前出の少女や少年のように具象的なエピソードが歌われたかと思うと、
急にこのように魚が登場し、抽象的・比喩的な歌詞が登場することです。

「ファイト!」の中にこの“魚”や“水の流れ”“海”のイメージは何度も登場します。
それだけ重要な意味がある。と、当然、考えるべきですよね。


“水の流れ”は「暗い」
そこを“魚たち”は「のぼっていく」

水の流れとは上から下へ行くものですから、
「のぼっていく」というのは当然、水の流れに逆らって泳いでいるわけです。

そして“魚たち”が光って見えるのは「傷ついてはがれかけた鱗が揺れるから」
さらにフレーズ後半には「やせこけて、そんなにやせこけて」ともあります。

水の流れに逆らい、一見美しく見える“魚たち”
しかし実は、傷つき、やせ衰えているのです。

  きっとこのまま傷つき、やせていけば、いつか魚は死ぬでしょう。
  「美しくのぼっていく」ほどに、魚は苦しみ続けるのです。


当然、このフレーズにおける“水の流れ”(暗い)とは大人たち、
“魚たち”(光っている)とは少女少年たちのことを指しています。

そして、「流れ落ちてしまえば楽なのにね」です。
楽になるためには、流れに逆らわず、身を任せ同化すれば良い。
そうすればもう、鱗がはがれ傷つくことも、やせ衰えることもありません。
ただし、それは同時に“光っている”ではなくなることも意味しています。

つまりここでも、「頬を打たれた少年の眼が年をとる」と同じように、
逆らうことをやめる、あるいは痛みを恐れることで、子供もやがて大人になっていく
ことが歌われています。






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